漫画『キングダム』に桓騎と縁の深い『砂鬼一家の長(おさ)』として登場する偲央(しお)。
美しく心優しい偲央(しお)を失ってしまったことが、桓騎の怒りの根源であるとわかってきました。
偲央(しお)の登場からその果たした役割、最期までを考察していきます。
【キングダム】偲央(しお)と桓騎の出会い
桓騎十三歳くらいのとき、山道で倒れて死にかけていたのを助けてくれたのが偲央(しお)でした。
偲央(しお)たちは子どもばかりの盗賊団。
人に売られて、売られた先で傷つけられて、山に捨てられたり逃げ出したりした子どもたちの集まりで、生きていくために野盗を働いているのです。
領主に面白半分に顔を焼かれた召(しょう)、骨と皮に痩せこけていた風(ふう)達のような、自分たちより小さい者を守っていこうと偲央が作った集団です。
偲央は自分よりも弱いものを助けて、束ねて、生きていこうとする女の子だったんだ。
【キングダム】偲央の作った子どもだけの野党団
殺しはしない、必要以上に奪わない、というルールでつつましく暮らしていましたが、狼甫(ろうほ)一家という大人の盗賊団が上に立ち、上納金を取っています。
山道で旅人を襲っても、相手が本当に困るようなものは盗らないんだ。
その手加減が自分たちに返ってきてしまう日が来るとも知らずに…
【キングダム】偲央たちを食い物にする狼甫(ろうほ)一家
偲央たちは旅人の身ぐるみはぎ取っていないと知った狼甫一家の5人は、ある日偲央たちのアジトを襲い、稼ぎを奪い取ったあげく、偲央までも弄ぼうとします。
偲央は自分さえ我慢すれば、と仲間たちの抵抗を押しとどめます。
しかし、その偲央の手が震えているのを見た桓騎は、その場で5人とも●してしまいます。
その後の仕返しを恐れる偲央たちに、桓騎は言います。
お前らおかしいんだよ
当たり前になっちまってんだよ
”奪われる”ことが
おかしいだろうが そんなこと大丈夫だ 俺に任せとけ 全部上手くいく
桓騎『キングダム』67巻p.193 原泰久
桓騎は子どもたちを率い、頭目・狼甫の本拠地へ紛れ込み、狼甫の寝込みを襲って●してしまいます!
あの名言は13歳のときからだって言うのか?
凄すぎる桓騎!
偲央を守るために盗賊を●したり、頭目を襲ったりしたんだよね?
やることは乱暴で残忍だけど、偲央を守るために、できることはそれしかなかった、と考えると見方が変わってしまうなあ。
【キングダム】砂鬼一家のはじまり
その後も狼甫一家の偲央たちに対する追及はやまず、偲央たちはやむなく自分たちの手で作った”聖地”を捨てて逃避行を続けました。
しかしある日、桓騎が狼甫の残党を捕まえ、その死体を切り刻み、臓物を周りの木々に張り巡らし、世にもおぞましい晒し物を作り上げたのです。
力のねェ奴は頭使わねェとな
普通のことやって生き延びられないなら
誰もやれないことをやらねーとな(これが)この先この仲間がだれ一人傷つけられないための手段だ
桓騎『キングダム』67巻p.198
ある日を境に偲央たちは人じゃないといううわさが流れ、結局桓騎の言ったとおりになったのです。
偲央たちは『砂鬼』と名乗り、人々から恐れられる存在へと変わっていったのです。
砂鬼っていうのは一家の少年が桓騎に「怖いものはなんだ」って聞かれて、子どものころに聞いた話の『子どもを砂の中に引きずり込む鬼』が怖いって答えたのがもとになっているんだ。
ほんとに子どもたちの集団なんだな!
子どもたちが、ただ生きることだけのために必死に戦わなくてはいけなかったなんて切ないね。
【キングダム】桓騎の怒りの根っこ
桓騎はある夜、一家を率いて、召の顔を慰みに焼いたという領主の館を襲います。
桓騎は物盗りだけでは終わらず、仲間が止めるのも聞かずに領主の顔を焼き、仲間に宣言します。
この世には高い所に立って好き放題やるバカどもと
そいつらの犠牲になる底辺の者達と
その中間の者たちがいる。底辺が本当に怒りを向けるべき相手は無関係を決め込んでいる”中間の奴ら”だ
そいつらが何もしねェから世の中の構造が変わらねぇんだよ桓騎『キングダム』67巻p.213
偲央は桓騎に向かって叫びます。
お前が”怒り”を向けると言っている相手は底辺以外すべての人間だぞ
つまりお前はこの世界のほぼすべてを憎悪すると、否定すると、偲央『キングダム』67巻p.215
桓騎が砂鬼一家に拾われるまでの話は明かされていないけど、そこにも憎悪に満ちたエピソードがあるのかな?
ここに来てからの出来事だけでも、「こんなのおかしいだろ!」と考えるのに十分じゃないか?
子どもたちが味わう苦痛や、それを庇い守ろうとする偲央の優しさに触れて、桓騎は「全部上手くいくように俺が導いてやる!」と決心したんじゃないか?
【キングダム】偲央の最期
桓騎率いる砂鬼一家は、順調に勢力を拡大し続けていきます。
そんな桓騎への見せしめとして、紀巴(きは)城主が偲央を拉致し、乱暴した末に●してしまったのです!
四肢を切り落とされた無残な偲央の遺体を見て、桓騎は復讐を誓いますが、紀巴城には侵入すらできません。
桓騎はこの後砂鬼一家を去ります。
【キングダム】偲央の復讐を果たす桓騎…首斬り桓騎の異名のゆえん
その後南方で『桓騎一家』を作り上げていき、ついには軍の規模にまでなったとき、桓騎は紀巴(きは)城を落とします。
城主のみならず住民全員の首を自分の手で斬った桓騎。
このエピソードこそ、『首斬り桓騎』の呼称のもととなったものです。
えーー!これ19巻で読んだとき「頭おかしい残虐な奴」と思ったとこだ!
そうだな…改めて読みなおすと、悲しいな。
あの頃は叶わなかった城主に対して、一回りも二回りも大きくなった桓騎は、ついに偲央の復讐を遂げました。
桓騎が以前に言った「底辺が本当に怒りを向けるべき相手は無関係を決め込んでいる”中間の奴ら”だという言葉を思い出せば、
「お前らが見て見ぬふりを決め込んだから、偲央は命を落とした」という桓騎の底知れない怒りを理解できる気がします。
【キングダム】偲央を思い出す桓騎
宜安で李牧軍を待ちながら、桓騎が思い出しているのは偲央のことでした。
子どもたちに囲まれ微笑む偲央。
「お前みたいなやさしい奴が一番割を食うんだよ、偲央」
「そうかも知れないね。でも、あんたみたいに世の中が見えすぎるのも人一倍苦しむよ、桓騎」
「でもそんな二人がずっと一緒にいれたら 少しはいいことがあるかもね、桓騎」
頬を寄せ抱き合う桓騎と偲央。
堅気になって、一緒になって、普通の幸せを手に入れることができたかもしれない瞬間だったかもしれません。
こんなやさしい女が、こんなに一生懸命生きている子どもたちが、なぜ虐げられなくてはいけないんだ?
桓騎は命が消えるその瞬間まで、怒り続けていたんだと思うよ!
そして桓騎の最期。
脳裏に浮かぶのは偲央のおもかげ。
「私のためにこんなに怒ってくれて、ありがとうね桓騎」
偲央『キングダム』第752話
雷土がふと感じた、那貴が知りたかった、桓騎の怒りの根源。
偲央を苦しめた「世の中の仕組み」、それを見て見ぬふりする「中間の奴ら」。
もう手の届かない偲央への思いが、桓騎を駆り立てたのかもしれません。
【キングダム】偲央(しお)の最期は?『首斬り桓騎』の思い人の生と死 ・まとめ
13歳の桓騎の命の恩人であり、子どもだけの盗賊団の頭領をつとめていた偲央。
偲央は自分よりも小さく弱いものを守る、と心に決めた優しく強い女性でした。
そして桓騎とは思い思われる仲であったようです。
偲央への思いが桓騎を駆り立て、そしてまさに偲央が言ったとおりに桓騎自身を苦しめてもいたでしょう。
偲央のエピソードを知ってから読み返す、19巻以降は読後感が違います。
あなたも是非、『キングダム』の深い沼にハマってみてください!
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