『キングダム』に登場する『天下の大将軍』王騎を、絶対王座に君臨させることができたのは、副官・騰の力も大きかったかもしれません。
王騎と騰の掛け合いから、カリスマのNo.2としての騰の絶妙な仕事を俯瞰してみましょう。
『キングダム』王騎「あなたに言っていますよ騰」
騰が最初に登場するシーンは、紀元前245年、王弟・成蟜(せいきょう)が咸陽で反乱を起こしたとき、王騎将軍は信たちが潜入した「右龍」の様子を見に行くよう騰に指示します。
これを「オーイ誰か」と部下に振ろうとするのを、王騎にぴしゃりと「あなたに言っていますよ騰」と封じられます。
ギャグマンガのような面白さがありますが、騰の凄さがわかるのはこの後です。
『王騎の考えが手に取るようにわかる』騰が、王騎にこんな注意を受けるのはおかしいのです。
『王騎将軍は騰の目で右龍の戦況を見て来て欲しい→あるいは、右龍の戦闘に助太刀して欲しい』
そう考えているのがわかるのに、あえて命令を無視しているのです。
案の定、そのすぐあと、王騎は騰に『別の場所』に行って欲しいと言います。
騰はこうなることがわかっていて、右龍をスルーしたのです!
騰は竭氏(けつし)はじめ反乱の首謀者である大臣たちの逃げ道を封じたのです。
しかも「我が殿の命により」。
この命令を王騎から引き出したのは、騰ではなかったでしょうか?
騰は王騎の考えも読み、同時に全体の戦況も把握しています。
この時「右龍は勝ち、広間まで攻め入ってくる」判断ができなければ、次の手に備えることなどできないはずです。
これこそ、「王騎の副官を長年務めた自負」のゆえんたる一例でしょう。
王宮前広場の敷石にヒビを入れながら、王騎は城壁の上から地に降り立ちます。
王騎は魏興を一瞬にして斬り捨てると、嬴政(えいせい)に「貴方様はどのような王を目指しておられます?」と問いかけ、「中華の統一王だ!」という答えを聞くと、「ンフフフフフフフフフッフフフフフフ」という笑みを残し、撤収していきます。
王騎が「騰も撤収ですよ」と声を掛けた時には、騰はすでに縄梯子の上部まで行っているのがスゴイ…いや、考えようによっては「この問答はすぐ終わる」と踏んでここで待っていたかもしれませんね(笑)騰なら。
『キングダム』王騎「私はただあの丘に登りたいと思っただけですよォ」
紀元前245年蛇甘平原。
麃公(ひょうこう)将軍率いる秦軍は、呉慶将軍率いる魏軍相手に苦戦しています。
戦場を見下ろす崖の上に現れたのは王騎将軍です。
王騎「あちらの丘の方が見晴らしが良さそうですねェ そう思いませんか、騰?」
騰 「ハ!間違いありません、殿。
しかし殿、許可なく戦に加わるのは罪となります。
残念ですが我々が足を踏み入れられるのはここまでです」
王騎「誰も参戦するとは言ってませんよォ。私はただあの丘に登りたいと思っただけですよォ。
途中邪魔なものは排除いたしますが」
騰 「さすが殿。完璧な言い訳です」
王騎「んでわっ」王騎・騰『キングダム』7巻p.31
まずは王騎のやりたいことを「ハ!間違いありません」とがっつり受け止めます。
ビジネス書好きの諸兄は「Yes-But話法ね」と思いましたか?
騰はさらに上手を言っているところを見せてくれます。
この段階で騰は、王騎の言い訳まで分かっているのです。
しかし最高の副官・騰は「見に行くだけですよね?」なんて自分から言ったりしません。
騰は、解決策を王騎の口から言わせているんです!
これによって騰は「さすが殿。完璧な言い訳です」と自分が心服していることを言葉にする機会を手に入れるのです。
どうですか?
王騎がウキウキと「んでわっ」と崖を駆け下りられる気持ちになれたのは、騰の力ではないでしょうか?
『キングダム』でこんな凄技を使えるのは、他には桓騎のところのオギコくらいのものですが、あちらは無意識のうちにやってのけているのでしょう。
『キングダム』王騎『ねぇ騰?』に対する返事はいつも「ハ!」
王騎が「ねぇ騰?」と呼びかける時、王騎は騰に質問しているのではありません。
まず自分にする確信的な「isn’t it?=だよね」があり、
それを①他人に対する説得力を増すために騰に振っている
②自分の確信を強めたいために騰に振っている
のどちらかなのです。
だから、騰の役割は、その確信を増幅すること。
最高の返事こそハ!なのです。
『キングダム』王騎「全軍前進」は騰がいればこそ
紀元前244年、馬陽戦。
士気が下がりつつあった秦軍歩兵隊を奮わせたのは、王騎将軍の二言「全軍」「前進」でした。
蒙毅は「王騎直属の配下たちは全員が将軍級」と語っていますが、そこから一段飛びぬけて王騎将軍の副官を務めている騰の非凡さはわかりますね。
王騎が自信をもって自軍を率いられるのも、将たち、そして騰の存在あればこそです。
王騎自ら飛信隊に『憑忌の首』を命じに足を運んできた時も、本陣は騰に任せて来ました。
王騎は騰に篤い信頼を寄せていることがわかります。
王騎は騰の元に戻ると戦況報告を聞きますが、この時は自身の一番の危惧を騰の口から語らせます。騰『(飛信隊が憑忌を討つまで)左翼が持つか』。
騰の口から自分の考えと同じ言葉が出ると、王騎は「その通り…」と答えます。
何にでも「ハ」というだけでは副官は務まりません。
上官の思考回路を理解し、同等あるいはそれ以上の分析力を示さねば、将の心を乱すばかりです。
これだけの知力を持った副官だからこそ、作戦が成功した時分かち合う喜びも大きいのでしょう。
騰 「率いずとも左の戦場を操られた殿は天才です」
王騎「ンフフフ 意外と私も嫌いじゃァありませんからねェ 長距離戦が。ココココ」王騎・騰『キングダム』12巻p.199
騰の言葉はお世辞やおべんちゃらではなく、心からの賛辞です。
『キングダム』王騎に沈黙を提供するのも騰の仕事
考え事をしている王騎に沈黙を提供するのも騰の気遣いです。
このしぐさ、ちょっと可愛いですね!
王騎は李牧の罠を感じ取っているのでしょうか。
『キングダム』騰「強さの底が知れぬのは我らが殿の方だ」
敵将・渉孟(しょもう)が王騎に向かってくると知り、王騎軍の軍長・鱗坊は騰に意見を言いに来ます。「渉孟は危険だ…奴を殿に近づけてはならん。奴の強さは底が知れぬぞ。」
ところが騰は慌てる様子もありません。
いつものように王騎に対して「ハ!」と答えるのみ。
「渉孟も鱗坊も勘違いしている。強さの底が知れぬのは我らが殿の方だ。」
騰『キングダム』14巻p.193
この言葉には、王騎に対する絶対的な信頼がにじみ出ています!
王騎もカッコイイですし、王騎を見守る騰にもしびれますね!
『キングダム』王騎と騰、信を励ましに来る
王騎は偉大な将軍ですが、自分が名を与えた百人隊・飛信隊の長、信には多くのことを教えてくれました。
龐煖に野営地を襲われ、多くの犠牲を出してしまった飛信隊。
王騎は信に「つらいですか?童(わらべ)信」と声を掛けてくれたのです。
信が今は深く考えないこと、残った仲間でどうやって武功を上げるか、考えるようにしていることを話すと、王騎はホッとしたのか、まず笑い飛ばしてくれました!
王騎「ココココせっかく励ましてやろうと思ったのに、その必要はなさそうですねェ、騰?」
騰 「ハ!つまらぬガキです」
王騎・騰『キングダム』14巻p.200
しかしその後は、真面目に「あなたの考えは悪くないですよ。飛信隊と名付けた甲斐がありましたよ」とほめてくれるのでした。
『キングダム』騰・戦場でもユーモアを忘れない
龐煖対王騎。決戦が近づくと趙軍は『三大天』を示す『大天旗(だいてんき)』を一斉に掲げます。
勢いづく趙軍を見て王騎は「あの大天旗一つでも士気は跳ね上がりますよ」と呟きます。
すかさず、騰が真面目な顔で「では こちらも六将旗を」と絶妙のボケをかまします。
王騎は「そんなものはありませんよォ騰ココココ」と笑いますが、この絶妙な笑いは良いほうに作用します。
王騎が矛を掲げて見せただけで、大天旗を上回る雄叫びを秦軍から引き出したのです!
騰のナイスフォロー、というべきではないでしょうか。
このあと敵陣へ突入した騰の『ファルファル攻撃』を、止めることは誰にもできませんでした!
『キングダム』騰・王騎との別れ
王騎は別れにあたって騰を呼び、まずは「誰一人として私の後を追うことを禁じます。軍長を始め一人もです」と申し渡します。
長く私を後ろで支えてくれましたが
本来あなたの実力は私に見劣りしません。
この軍の先のこと一切をあなたに委ねます。頼みましたよ 騰
王騎『キングダム』16巻p.178
騰は「ハッ」とその言葉を受け止めますが、拝手をする左手の指が右の拳に食い込んで、血が流れています。右の拳も固く握りこんでいるのでしょう、血が滴っています。
「これだから 乱世は面白い」
最期の瞬間まで命を輝かせて散っていった王騎を送る騰の心情を思うと、涙を禁じ得ません。
『キングダム』王騎と騰の掛け合いに学ぼう!騰が言わせる王騎の名言
騰は王騎の強さも、大きさも、思いも受け継いで歩いていきます。
笑い方も、冗談も、受け継いでいくことに決めたようですが、そこはどうなんでしょう(笑)
でも、騰が「ココココ」と笑うたび、私たちはそこに王騎将軍を感じます。
騰の冗談は、勝手に録鳴未を亡き者にしたりと、すでに王騎を超えて独自の宇宙へ行ってしまっているかもしれませんが、私たちはそんな中にも王騎将軍を感じています。
命尽きても忘れられることのない存在。
王騎がそんな伝説になったのも、騰の力が大きいかもしれません。
騰の言葉、王騎を信じ全力で支えたその心から、私たちも多くを学び取ることができます。
これからも秦の六大将軍・騰を応援していきましょう!
コメント