サーバーパンクの代表作の一つ、小説『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』と映画『ブレードランナー・ファイナル・カット』とを比較、考察してみました。
小説『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』について
1968年に出版されたフィリップ・K・ディック作『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』。
映画『ブレードランナー』の原作、と表紙にも書いてあります(笑)
舞台は核戦争により放射能の灰が降り続く地球。
富裕層は火星に逃れ、アンドロイドを使役して生活していますが、地球へと逃亡してくるアンドロイドを『処分』するのは『バウンティ・ハンター(賞金稼ぎ)』の仕事。
主人公はリック・デッカード。
サンフランシスコのビルの一室で、妻イーランと二人、屋上に電気羊を飼いながら暮らしています。
映画『ブレードランナー』について
映画『ブレードランナー』は、1982年にリドリー・スコット監督、ハリソン・フォード主演で制作されたSF大作です。
2007年にリドリー・スコット監督が再編集とデジタル修正を行ったものが『ブレードランナー・ファイナル・カット』。
2017年『ブレードランナー2049』が製作されています。
舞台は2019年11月のロサンゼルス。
環境破壊により酸性雨の降る地球に、植民惑星(オフワールド)から人類に反乱を起こした人造人間・レプリカントたちが逃亡してきます。
これらを片付けるのが『ブレードランナー』の仕事です。
主人公のリック・デッカード(ハリソン・フォード)は、すでにブレードランナーを退職していましたが、レプリカントに襲われた前任者の後を引き継ぎ職務に復帰します。
小説で想像した『フォークト・カンプフ検査』とアンドロイドの反応が、映画だとリアルに観られて面白いな!
動物あるいは電気動物のこと
小説『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』ではタイトルの『電気羊』が登場します。
核戦争後の世界では多くの動物が絶滅し、人々にとってペットはぜいたく品。
リック・デッカードの隣人は本物の馬を飼っており、デッカードはそれが羨ましくてなりません。
本物を買えない人間は、とてもよくできた模造の動物『電気羊』や『電気猫』を飼い、動物と触れ合い『共感』することがメンタル・ケアにつながっています。
アンドロイドに『共感』という能力はなく、人類は『共感』を宗教にまで高め、『マーサー教』、が大人気。『共感(エンパシー)ボックス』という装置を用いて、教祖ウィルバー・マーサーと肉体的融合ができるのです。
また、日常の感情は『ペンフィールド情調オルガン』を用いてコントロールしています。
舞台となる街の描写
小説『アンドロイドは電気羊の夢を見るか』は殺伐としたロスの街、シアトルとアリゾナの砂漠が舞台です。
これに比べて映画『ブレードランナー』は『未来都市』のイメージを思いきり膨らませています。
ビル群の間を飛び回る空飛ぶ車、飛空艇。
日本語や、日本人の映像が随所に挟まれ、無国籍感を漂わせて。
香港か、横浜が、歌舞伎町みたいだな!
スターウォーズみたいでもあるよ!
標的の人造人間
小説『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』に登場するアンドロイド
小説『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』では、地球に逃げてきた8人のアンドロイドのうち2人を前任者デイヴ・ホールデンが片付けています。残りは6人。
リック・デッカードはこれらを1日のうちに処分します。
- マックス・ポロコフ ソ連の警察官を偽装している
- レイチェル・ローゼン アンドロイドを製造するローゼン協会の重役の姪
- ルーバ・ラフト オペラ歌手。
- ロイ・ベイティー 逃亡アンドロイド8人のリーダー。
- アームガード・ベイティー ロイ・ベイティーの妻。
- プリス・ストラットン レイチェルと同じ顔貌・体型をしている。
映画『ブレードランナー』に登場するレプリカント
映画『ブレードランナー』では6人のレプリカントがタイレル社に忍び込み、残り4人がデッカードの標的です。
製造後数年で人間と同じ感情を生じてしまうため、寿命は4年に設計されています。
- ロイ・バッティ( ルトガー・ハウアー) リーダー。
- リオン・コワルスキー(ブライオン・ジェームズ) タイレル社の従業員になろうと入社テストを受ける。
- ゾーラ・サロメ(ジョアンナ・キャシディ)蛇女のダンサー。
- プリス・ストラットン(ダリル・ハンナ)ロイ・バッティのパートナー。
その他 レイチェル(ショーン・ヤング) タイレル博士の秘書。姪の記憶を植え付けられている。
ゾーラ・サロメが処分されるシーンは悲しかったな~
デッカードがリオンにやられそうになった時、レイチェルが助けてくれる。
レイチェルはデッカードがテストをして、自分がレプリだと知ってしまったのに、デッカードと心を寄せ合っていくんだ。
アンドロイドに惹かれる男たち
小説『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』イジドア
J・R・イジドアは放射能の影響で知能が低下してしまった特殊者(スペシャル)。
ヴァン・ネス動物病院(模造動物修理店)の集配用トラックの運転手。
人気のない空きビルに住んでいるので、迷い込んできたプリスに親切にする。
映画『ブレードランナー』のセバスチャン
J・F・セバスチャン( ウィリアム・サンダーソン)はタイレル社の遺伝子工学技師。
早老症に侵されており、実年齢より老いた外見をしている。
空きビルで自身が造り出した「ペット」と共に暮らしている。
プリスはセバスチャンの部屋にロイを引き入れ、自分たちの4年という寿命を延ばしてもらおうと、タイレル博士に近づきます。
感情を持つレプリカント
映画『ブレードランナー』では、レプリカントたちが感情を持ちます。
デッカードを愛するようになるレイチェル。
不思議なメイクアップを施したプリスは、花嫁のようなヴェールをかぶり、最後まで生きる意志を見せていました。
そしてプリスの遺体にキスをするロイの悲しみ。
狼のような遠吠えは恐ろしくも悲しく。
しかし最後にデッカードの命を救ってくれたのもロイなのでした。
ロイは白い鳩を抱きながら語ります。
おれはお前ら人間には信じられぬものを見てきた。
オリオン座の近くで燃えた宇宙船や
タンホイザー・ゲートのオーロラ。
そういう思い出もやがて消える。時が来れば 涙のように。
雨のように。その時が来た。
ロイ・バッティ『ブレードランナー』
白い鳩は飛び立ち、ロイはその寿命を終えます。
こんな詩人がたった4年の命だなんて。
やはり悲しすぎる…
エンディングは全く違う!!
小説『アンドロイドは電気羊の夢を見るか』では、すべての任務を果たしたデッカードは人生に疲れて、オレゴン州の近く、無人の荒野に行きます。
偶然にヒキガエルを見つけ、妻のもとに帰り、冷えかけていた夫婦は愛情を取り戻すというハッピーエンドです。
ハッピーなのに、主人公と共にものすごい長旅を終えたような気分になったよ…
映画『ブレードランナー』では、リック・デッカードは処分命令が出たレイチェルを連れて逃亡します。
レイチェルが踏んだ『折り鶴』は、ハリー・ブライアントの部下・ガフがデッカードがレイチェルをかくまっていることを知っていることを現しているのでしょう。
これもハッピーエンドの一つだよ。でも、この先も思いやられるけど…
サイバーパンクつながりの小ネタ
小説『アンドロイドは電気羊の夢を見るか』(1968年)の中の小ネタです。
デッカードの前任者、デイヴ・ホールデンが入院している病院の名前は『マウント・ザイオン病院』。
ザイオン(Zion)とはエルサレムの歴史的地名のようですが、小説『ニューロマンサー』(1984年)ではスペースコロニーの名前として、映画『マトリックス』(1999年)では都市の名前として登場します。
『機動戦士ガンダム』では『ジオン公国』って国名で出てくるよ!
それぞれの作品がこの『アンドロイドは電気羊の夢を見るか』へのオマージュとして使用しているかどうかは不明です(笑)
『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』『ブレードランナー』あらすじ比較と考察・まとめ
サイバーパンクの名作『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』と映画化作品『ブレードランナー』を比較すると、映画の長さに合わせて『電気羊』という愛玩動物関連がカットされていることが分かりました。
セバスチャンの家にはからくり人形的なペットがたくさんいたぜ?
アンドロイドとレプリカント、バウンティ・ハンターとブレードランナーなど、名称の違いはありますが、映画版では小説の世界観を可視化、そして発展させたものと考えられます。
小説を読んだら映画が見たくなる、映画を観たらまた小説が読みたくなる、というように何度も楽しめる作品です。
ぜひ手に取ってみてください。
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