映画『国宝』あらすじと作品中の歌舞伎演目・感想・原作との違い・主題歌

国宝上巻 映画

映画『国宝』を観てきました。吉田修一さんの原作『国宝』を読んでからずっと、映画を観るのを楽しみをにしていました!

ここでは映画版のあらすじ、作品中の歌舞伎演目、原作との違い、主題歌を感想を交えてご紹介していきます。

原作を読んでから行けば映画の細部まで納得感がありますが、原作を読まずに行っても楽しめる作品です。

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映画『国宝』あらすじ(原作からの解説も含む)

任侠の親分の家に生まれた喜久雄(吉沢亮)は、抗争によって父を失い、仇討に失敗したことで、大坂の歌舞伎俳優・花井半二郎(渡辺謙)に引き取られます。

これは、新年会の席で喜久雄が舞った『積恋雪関扉(つもるこいゆきのせきのと)』*1を花井半次郎が見ていたこと、仇討に失敗し長崎に居られなくなったことの2つの理由によります。

花井半二郎と俊介(横浜流星)は舞台上、親子で『連獅子』*2を披露し、喜久雄はそれを舞台の袖で胸を熱くしながら見ています。

半二郎の息子・俊介は喜久雄と同じ15歳。二人はともに半二次郎から厳しいけいこを受けながら歌舞伎にのめりこみ、素人だった喜久雄も「真綿が水を吸いこむように」見る見るうちに上達していきます。

二人は人間国宝・小野川万菊(田中泯)の演じる『鷺娘』*3を見て、女形の役の凄みに惹きこまれていきます。

俊介(芸名:花井半弥)、喜久雄(芸名:花井東一郎)が共につとめる舞台が『二人藤娘』*4。
美しい二人が演じる藤娘は素晴らしく、興行主・梅木の意向で、京都南座での『二人道成寺』*5の大舞台を任されます!

半二郎は「俊ぼんは歌舞伎の家に生まれたが守ってくれる。喜久雄は一日も欠かさぬ稽古で身に着けたが守ってくれる」と言葉をかけ、大舞台に上がる二人を送り出します。

というキーワードの一つがここで出てくるんだね。

東半コンビとしてマスコミの寵児となった二人ですが、その矢先に花井半次郎が交通事故に遭うという大事件が。半二郎の代役として指名されたのは、息子の俊介でなく、部屋子の喜久雄でした。

喜久雄に与えられた大役は、『曽根崎心中』*6のお初。
♪証拠なければ理も立たず…徳さまは死なねばならぬ
という有名なくだり。花井半次郎(渡辺謙)の厳しい演技指導が歌舞伎の深淵を垣間見せてくれます。

この時緊張で化粧をする手が震える喜久雄が、手伝ってくれる俊介に「一番欲しいの俊ぼんの血や。俊ぼんの血をコップに入れてガブガブ飲みたいわ」と弱音を吐きます。

俊ぼんには守ってくれるがある。自分にはない。
俊介は(喜久雄には)芸があるやないか、と言いますが、その言葉は俊ぼんを苦しめることに。

喜久雄の舞台を見た俊介は家を飛び出し、俊介を守るかのように、なんと春江がついていきます。

喜久雄と祇園の芸妓・藤駒、二人の娘綾乃はお祭りを楽しみに行きます。
このとき小さな神社で喜久雄がお詣りをするのを見て、綾乃が神様に何を願ったのか聞くと、喜久雄は
日本一の歌舞伎役者にしてくれたら他のものは何もいらんて悪魔と取引してた」と答えるのです。

 

二つ目のキーワード『悪魔と取引』ね

糖尿病が悪化した花井半次郎は、自分が四代目花井白虎、喜久雄が花井半次郎を襲名しようと言い出します。そして襲名披露の舞台の上で、白虎は吐血。

このタイミングで俊介が丹波屋(花井家)に戻ってくるのです。
春江は俊介との子・一豊を連れていました。

マスコミは10年ぶりに戻ってきた俊介をもてはやし、喜久雄は半二郎の名跡を盗んだかのように扱われて一気に凋落。舞台では端役しか回って来ません。

喜久雄は歌舞伎の世界に戻るため、上方歌舞伎の大御所・吾妻千五郎(中村鴈治郎)の娘・彰子を誘惑しますが、彰子は千五郎の反対にあい、二人は家を出てドサ回りの生活をする羽目になります。

どん底に落ちた喜久雄と対照的に、テレビからは俊介が芸術選奨新人賞を受賞したというアナウンスが流れてきます。

その夜の宴会場で酔客に絡まれた喜久雄は、カッとなって客に手を出し、3人がかりで殴る蹴るの暴行を受ける羽目に。

ビルの屋上で赤い襦袢で踊るシーンはここ!

…歌舞伎の世界は結局なのだと、絶望しているんだろうな。

喜久雄は酒を飲み、ビルの屋上で一人舞い続けます。

泥酔しても体は優雅に舞ってしまう。やはり喜久雄の体にはが沁みついているんだな。

翌朝、万菊に呼び寄せられた喜久雄は、ふたたび俊介と同じ舞台を踏めるようになります。
俊介は歌舞伎界に戻ってきてからはずっと万菊の指導を受けていたのです。

二人の競演が世間から熱狂的に受け入れられるようになった矢先、俊介は糖尿病が原因で片足を切断しなくてはいけないという診断を下されてしまいます。

これもまたの因果、としかいいようがない・・・

しかし片足になった俊介は、まだ舞台に立ちたいという情熱を持ち続けています。
演目は曽根崎心中のお初。喜久雄は自分が徳兵衛を演じると申し出ます。

二人で演じる曽根崎心中。
お初が徳兵衛に伸ばす足の、そのつま先はこれまた壊死が始まり色が変わっています。

俊介の片足は義足、もう片足も壊死が始まっているためか、花道で転んでしまいます。
そんな状態にもかかわらず、最後の一幕の心中のシーンまで演じ切る二人の姿は壮絶です。

客のはけた舞台の上で、俊介は喜久雄に「あっこからいっつも何かが見とるな」と客席のはるか上を目で示します。

俊介の死後16年。喜久雄は人間国宝に認定されます。
ホテルの会場で、インタビューを受けるのはすっかり白い髪になった喜久雄。
カメラの女性は、成長した娘・綾乃でした。

記念公演は『鷺娘』。
舞台の上に現れる一世一代の鷺の精。
喜久雄もまた、舞台の上から客席のはるか上を見上げて「綺麗やなあ」とつぶやくのでした。

それは芸道の神であったのでしょう。

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映画『国宝』作品中の歌舞伎演目

映画の中のきらびやかな歌舞伎の舞台を見て「本物が見てみたい」と思う方は多いでしょう。
かんたんにご紹介します。

『国宝』歌舞伎演目『積恋雪関扉(つもるこいゆきのせきのと)』*1

雪の逢坂山の関所にはなぜか小町桜が満開。帝の死を悲しんでその花は薄墨色です。

先帝の忠臣・少将宗貞は亡き主の菩提を弔って暮らしていますが、そこに偶然、恋人・小野小町姫が通りかかり再会を果たします。

関守の関兵衛は二人を取り持つのですが、関兵衛の正体は謀反を企てる大伴黒主
今夜小町桜を切って護摩を焚けば天下が取れるという占いに従って、小町桜に斧を振り上げます。

そこに現れたのが美しい傾城・墨染
彼女は黒主を惑わせつつ、実は宗貞の弟の恋人であり、小町桜の精霊だった・・・

『国宝』歌舞伎演目『連獅子』*2

舞台は文殊菩薩の霊山・清涼山にかかる「石橋(しゃっきょう)」。
ここに登場するのは、狂言師の右近と左近。彼らはそれぞれ親獅子と仔獅子の精となって舞を披露します。

  • 親獅子は、仔獅子を谷底に突き落とします。
  • これは「這い上がってくる強い子だけを育てる」という獅子の伝説に基づいています。
  • 仔獅子は何度も突き落とされながらも、ついに谷を登りきり、親子は再会。
  • その後、二人は獅子の精となり、牡丹の花に戯れながら豪快な毛振りの舞を披露します。

『国宝』歌舞伎演目『鷺娘』*3

1. 雪の情景:
しんしんと雪が降る中、水辺の柳の下に、白無垢姿の娘が蛇の目傘を差して佇んでいます。彼女は、人間に恋をしてしまった白鷺の精です。
2. 恋の苦悩:
道ならぬ恋に苦しむ娘は、その心情を語り、美しい踊りを披露します。
3. 姿の変化:
娘は、華やかな町娘の姿に変わり、恋の喜びや切なさを表現します。
4. 地獄の責め:
しかし、再び白鷺の姿に戻ると、恋の執着から地獄に堕ち、責め苦を受けることになります。
5. 悲劇の結末:
降りしきる雪の中で、もがき苦しみ、遂げられぬ恋の果てに、息絶えてしまいます。

『国宝』歌舞伎演目『二人藤娘』*4

舞台は近江国・大津の風景。大きな松の木に絡む藤の花が咲き誇る中、二人の美しい娘の姿をした藤の精が現れます。

二人は、移り気な男心に翻弄される女心を、長唄に合わせて艶やかに舞いながら表現します。

恋の切なさや恨み、そして酔いにまかせた想いを、盃に見立てた扇や傘などの小道具を使って繊細に描写。

やがて日が暮れ、藤の精たちは春の名残を惜しみながら、静かに姿を消していきます。

『国宝』歌舞伎演目『二人道成寺(ににんどうじょうじ)』*5

『京鹿子娘道成寺』を二人の女形が踊り比べる形に作り替えたもの。
能の『道成寺』をもとにした作品で、紀州道成寺の鐘にまつわる伝説をもとにしています。

かつて清姫の化身だった大蛇に鐘を焼かれた道成寺は、、長らく女人禁制となっていました。
ようやく鐘が奉納されることとなり、その供養が行われることになりました。
鐘供養が行われている道成寺に、二人の白拍子(花子)が現れ、舞を奉納したいと申し出ます。
住職は最初はためらいますが、二人の願いを受け入れます。

白拍子たちは交互に、あるいは一緒に優雅な舞を披露します。
しかし、やがて舞は激しさを増し、二人の本性が、かつてこの寺で鐘に恨みを抱いて蛇と化した清姫の霊であることが明かされます。

『曽根崎心中』*6

♪証拠なければ理も立たず…徳さまは死なねばならぬ
という有名なくだり。花井半次郎(渡辺謙)の厳しい演技指導が歌舞伎の深淵を垣間見せてくれます。

大坂の醤油屋の手代・徳兵衛は遊女・お初と恋仲。
しかし、徳兵衛の叔父が勝手に別の縁談を進め、徳兵衛にはその嫁取り話を断るには大金が必要になってしまいます。

徳兵衛は友人の九平次に金を貸しますが、返してもらえず、逆に嘘をつかれ、人前で侮辱されてしまいます。名誉を傷つけられた徳兵衛は絶望します。

お初も遊女であるがゆえに、自由に徳兵衛と添い遂げることはできません。

ふたりは、「この世では一緒になれないなら、あの世で添い遂げよう」と決意し、夜の曽根崎の森で心中します。

原作に登場:菅原伝授手習鑑『寺子屋』

物語は5段構成で、政争に巻き込まれた菅原道真(作中では菅丞相)と、彼を取り巻く人々の忠義・親子の情・悲劇が描かれます。

第一段:筆法伝授と失脚の序章
菅丞相は、書の奥義を弟子・源蔵に伝授。
一方、養女・苅屋姫と帝の弟・斎世親王の密会が発覚。
政敵・藤原時平の策略で、菅丞相は謀反の疑いをかけられ流罪に。

第二段:道明寺での別れと奇跡
菅丞相は九州へ護送される途中、伯母・覚寿の屋敷に立ち寄る。
苅屋姫との涙の別れ、そして自ら彫った木像が命を救う奇跡が起こる。

第三段:三つ子の兄弟と桜丸の切腹
菅丞相に仕える三つ子(梅王丸・松王丸・桜丸)が登場。
桜丸は密会を手引きした責任を感じ、自害。
父・白太夫の70歳の賀の祝いが、悲劇の場面に変わる。

第四段:寺子屋の悲劇
源蔵は、匿っていた菅丞相の息子・菅秀才の命を守るため、松王丸の実子・小太郎を身代わりに。
松王丸は涙を飲んで首実検を行い、忠義を果たす。

第五段:雷神となった菅丞相の復讐
菅丞相は怒りのあまり雷神に変身し、都へ飛来。
藤原時平を討ち、名誉を回復。
最後は天神様として祀られる。

原作に登場:仮名手本忠臣蔵

舞台で吐血した白虎が入院中、見舞いに来た喜久雄に聞かせ、また喜久雄と俊介が共に舞台に立てるようになって選んだ演目でもあります。

江戸時代、塩冶判官(えんやはんがん)は将軍の使者を迎える役目を任されるが、指南役の高師直(こうのもろなお)に侮辱され、怒りに任せて斬りつけてしまう。
この罪により塩冶判官は切腹、領地も没収される。

家臣たちは主君の無念を晴らすため、高師直への仇討ちを計画する。
筆頭家老の大星由良之助(おおぼしゆらのすけ)は表向きは遊び人を装いつつも密かに同志を集め、ついに本懐を遂げて師直を討ち取る。

忠臣蔵の登場人物と名前を変えてあるんだね!

原作に登場:阿古屋

平家滅亡後、鎌倉の源氏方に追われる平家の武将・景清の行方詮議のため引き立てられた、恋人阿古屋。
景清の居場所を知らぬと述べる阿古屋に、代官・重忠は心に偽りがあれば演奏の音色が乱れるはずだとして、琴・三味線・胡弓の三曲を演奏させます。
しかし、阿古屋は乱れの無い見事な演奏を披露し、解放されるのでした。

原作に登場:隅田川

原作では万菊が若い二人に見せる演目であり、また俊介が最後に舞いたいと願ったのがこの『班女の前』

舞台は春の隅田川。
狂女(正体は都の貴族の女性)が、行方不明になった我が子を探して京の都から東国(武蔵国)へ旅をしてきます。

隅田川の渡し場で船頭と出会い、彼に我が子の行方を尋ねます。
船頭は、この地で人買いに連れられてきた子どもが病死し、その供養が行われていることを告げます。

狂女はその子こそ自分の息子・梅若丸(うめわかまる)であると気づき、悲嘆に暮れながら、子の亡骸の眠る塚の前で狂おしく嘆きます。

すると、夜の帳の中、亡霊となった梅若丸が現れて母のもとに現れますが、やがて夜が明け、霊は静かに消えていきます。母は再び子を失った悲しみに沈みながら、旅を続けることになります。

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映画『国宝』感想

原作の吉田修一氏は、三年間歌舞伎の裏方として情報収集したそうですが、映画では四代目中村鴈治郎氏が指導されたとのことで、予想以上に歌舞伎の劇場の裏側やお得意様との交流が描かれていたのが面白かったです。

また、半次郎の妻・幸子役を演じた寺島しのぶさん。寺島しのぶさんのお父様は、七代目尾上菊五郎さんですから、いわばモノホンの歌舞伎のうちの子です!それだけにそのリアルな存在感がすごい!
映画では芸の力で喜久雄が半二郎を襲名しますが、実際にはそれはあり得ないと話されています。
歌舞伎の血を引いた我が子俊介への想いが説得力を持って伝わりました。そして生まれ育った家で身に着いたであろう所作のひとつひとつの説得力が大きかったです。

一方春江、市駒(藤駒)、綾乃に関しては原作に描かれるエピソードの数々が描き切れなかったのが惜しい!やはり映画に感動されたらぜひ原作を手に取っていただきたいです。

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映画『国宝』原作と映画版の違い

原作では俊介復活後に喜久雄は映画に、新派演劇にと活路を見出しパリのオペラ座でオペラ歌手との共演を成功させていきます。これらの実績は坂東玉三郎さんとも重なるものがあり、後の人間国宝認定へと繋がっていくと感じられるので、ここがカットされてしまったのは残念でした。

その後の任侠の世界との義理の板挟み、さらには瓢箪から駒のような吾妻千五郎との和解など、人間ドラマの数々。

娘・綾乃の人生の変転と、喜久雄が綾乃から突きつけられる自らの
映画の尺では描き切れない『国宝』、お勧めします。

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映画『国宝』登場しないキャラクター

彼らの姿が見られなかったのも惜しい!

徳次

徳次は喜久雄の二歳上。長崎で喜久雄の子ども時代から世話をしてくれて、共に大阪にやってきます。

「坊ちゃんの一番のお得意になって、楽屋にペルシャじゅうたん買って、専用の劇場も建てたる」というセリフは、映画では春江が言いますが、原作では徳次のもの。
人情に厚く破天荒なキャラは最高で、映画では尺の関係か登場がないのが惜しまれます。

弁天

弁天は大阪の男。
喜久雄と徳次、長崎から呼び寄せられた春江が大坂に着いて早々出会い、青春を共にします。

テレビで売れっ子のコメディアンに成りあがる出色のキャラ。

喜久雄の母マツ

極道の妻であったマツは、夫の死後喜久雄に仕送りしながら浮き沈みの多い数奇な人生を送ります。

喜久雄は実の子ではなく、先妻の子。マツが義理と愛情ゆえに見栄を張ろうと苦労しつつ生きる姿が胸を打ちます。

荒風関

お相撲さんの荒風関とその息子が小説に登場し、爽やかな存在感を醸しています。

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映画『国宝』主題歌『Luminance』

Luminanceとは輝度、明るさのこと。

小説では喜久雄がいつも感じていた存在。
映画では俊介が「あっこからいっつも何かが見とるな」と話していたもの。

舞台の上からやさしく見守る歌舞伎の神様でしょうか。
その存在は二人の魂を捉えて離さない…喜久雄が契約した悪魔なのかもしれません。

このささやき声は女性なのか思っていましたが、KingGnuの井口理(いぐちさとる)さんでした。

歌舞伎の女形を演じる役者が主人公のこの映画に、ジェンダーレスな声がぴったりですね。

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映画『国宝』まとめ

2025年最高の映画になるのではないかと高い評価を受けている『国宝』。

映画館の並び具合、混み具合もその人気を反映していました。

一度だけでなく、二度、三度と足を運びたくなる名作です。ぜひ映画館へ。そしてAmazonへ(笑)

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