『燃えよ剣』は新選組を題材に、土方歳三を主人公として書かれた司馬遼太郎の小説です。
土方歳三の筋を通して生きる姿、戦略家としての顔の他に「お雪」という架空の女性を配することによって、繊細な心情を描いています。
ところでこのお雪、どんな女なのでしょう?
土方歳三にとって都合の良い時と場所に必ず現れるお雪を、女性からの目線でちょっとイジワルに考察してみましょう。
『燃えよ剣』お雪と土方歳三との出会い
京の町で七里剣之助に襲われた土方歳三が、路地裏で傷の手当をしていると、頭上の小窓が開き、家の中に招き入れられます。
偶然の出会いです。
疑問が二つ。
1.お雪について。
一人暮らしの寡婦であるお雪は、家の前で血まみれになっている見知らぬお侍を家にあげるのか?
2.土方歳三について。
局中法度によれば、争いで傷を負い、しかも相手を倒さない場合は「士道にもとる」として切腹だったのでは?
「新選組血風録」にはそんなエピソードがありましたよ!副長!
…今回は、お雪の話に戻るとしましょう。
我が家の前で、怪我の手当をしているお侍がいるとします。
土方歳三は長身イケメン、卑しからぬ風体の男であったでしょう。
現代のように電話で警察を呼ぶ、という方法もない以上、手を貸すか見て見ぬふりをするかしかなかったとしたら?
武家育ちのお雪は、ナイチンゲール的博愛精神から、怪我人を放置できなかったのかもしれません。
家に上げると「せうちう(焼酎)」、傷薬、さらしを用意し、駕籠を呼びに行きます。
そして亡き亭主の着物を、着替えに貸してやるのです。
遠慮して、褌ひとつ、さらしを巻いた姿で帰ろうとする歳三に
「お召しくださいまし」と、うむをいわせず、命ずるようにいった。
やはりこれはナイチンゲールですね。
こうするべき、と思ったことは臆せず言い切る潔さがあります。
歳三は、立ち眩みそうになるほどの思いで、この女が命じた歯切れのいい響きを懐かしんだ。
江戸の女ですね。いい女としか言いようがありません。
しかしですよ。
女は挙措をきびしくひかえめにはしているが、その眼に、あきらかに歳三への好意がある。その好意が、おなじ東国のうまれ、という単なる親しみから出たものか、それとも、男としての歳三そのものへの好意なのか。
こういうね、あえて隙を見せるというか、わかりやすい態度を取るというか、これが大切なわけですね。
しかも、穿ち過ぎかもしれませんが、着物を貸せば返しに来ますからね。
お雪に学ぶポイントのひとつです。
『燃えよ剣』お雪は一人暮らしの寡婦、絵師
そもそも江戸の女であるお雪がなぜ、京で一人暮らしをしているのか?
この点については、次のように説明されています。
・夫は大垣藩の江戸定府で御徒士をつとめていた。
・夫は京での護衛を命じられ、単身京へのぼった。
・風変わりなところがあるお雪は、夫のあとを追って京へのぼり、藩には遠慮をしてひそかに町住まいをした。
・京にのぼったのは、京の絵師について四条円山派の絵を学ぶためであった。
・ほどなく夫が病死し、すぐ江戸の実家へ帰るべきところだったが、実家が裕福なので仕送りをしてもらってなんとなく日を消している。
なるほど。
京の町は物騒だったといいますが、そんな中でものびのびと好きなことをして暮らせていたんですね。
優雅です。
お雪に学ぶポイントその2は
『燃えよ剣』京でのお雪と歳三
土方歳三は、お雪に会ったその夜に、沖田総司に「おらァ女に惚れたらしいよ」と話しています。
その後たびたびお雪の家を訪ねますが、手を握るわけでもなく、ただ話をします。
江戸の話、義太夫の話、そして子どもの頃の話。
お雪は、頭のいい聴き手だった。いちいちうなずいたり、低くて響きのいい笑い声をたてたり、ときにはつつましくまぜっかえしたりした。
土方歳三は、七、八回目に訪ねてきて初めて、お雪は「母に似ている」と気づくのです。
お雪の賢いところは
この人は話しに来ているのではない。なにか、別の自分になるために此処にきている。
そう察するところです。
お雪に学ぶポイントその3。
『燃えよ剣』大坂に現れるお雪
無情にも時代は変わり、土方歳三は新選組を率いて、西本願寺から伏見奉行所へと屯営を移します。
鳥羽伏見の戦いで敗走して大坂へ。
すると…沖田総司や近藤勇のが療養している病室に、お雪は毎日のように見舞いに来て、梅の花など活けていくというのです!
そして、三日後には軍艦で江戸へくだるという日のこと。
土方は偶然にもお雪と出会い、二夜をともに過ごすのです。
お雪は「歳三に会えなくても近くにいたい」と考えてウロウロしていたという可愛い女です。
とはいえ、お互い連絡を取り合っているわけではないので、単身京から大坂に来て、「新選組はどこに?」と探り出したんですよね。
そして、土方歳三が偶然見つけてくれそうな松林の中にたたずむ。
スパイの訓練でも受けていたのか?と思うほどの情報収集能力と行動力です。
お雪に学ぶポイントその5。
『燃えよ剣』蝦夷地に現れるお雪
豪商鴻池の手代・大和屋友次郎が、英国汽船の便で、東京からお雪を連れてきました。
鴻池は京で新選組に警護を頼んだことを恩に着て、何かと便宜を計らってくれています。
友次郎は、沖田総司を見舞った時に、沖田から「お雪の様子を見てやって欲しい」と言われたのです。
土方とお雪は、函館の鴻池屋敷で、五稜郭へ出陣前の最後の夜を二人で過ごすことができました。
そして翌朝、土方はお雪とともに小姓・市村鉄之助を江戸に帰らせるように頼むのです。
これはすごいことです。
1.まずは(土方はいないのに)江戸へ行き、沖田総司に自分が江戸にいることを知らせる。
2.沖田から鴻池に、「お雪を蝦夷に」と依頼させる。
3.友次郎に、土方に自分が来ていることを伝えさせる。
タイムリミットのある中でこれだけのミッションを完遂するとは、やはり女スパイ並みの行動力、そして人を動かすコミュニケーション能力があると考えざるを得ません。
お雪に学ぶポイントその6。
映画『燃えよ剣』で柴咲コウはお雪をどう演じる?
氏名:柴咲コウ、RUI、KOH+、galaxias!、ギャラ子、MuseK
生年月日: 1981年8月5日
身長:160cm
職業: 女優、歌手、実業家(Les Trois Graces〈レトロワグラース〉代表取締役CEO)
お雪を演じる柴咲コウさんもまた、女優、歌手、実業家の顔を持つ多才な方です!
映画の中ではお雪は各地の戦場で率先してけが人の手当てをしています。
土方のストーカーでついて歩くのではないのです。
また、絵師としてたくさんの作品を制作する様子も描かれ、新選組隊士の隊服を、一人一人顔を思い浮かべてデザインするデザイナーとしての役も担っています。
ラストで七里研之助に堂々と「私は土方歳三の妻です」と言い切るところも納得の、現代的なお雪像を見せてくれました。
『燃えよ剣』お雪はストーカー?いい女?柴咲コウは現代的なお雪!まとめ
イジワルにストーカー扱いしてやろうと書き始めましたが、結局はお雪賛歌になってしまいました。
自らの信念を貫き散っていった土方歳三は、歴史に爪痕を残しましたが、お雪もまた、自らの恋を貫くために、信じられないほどの努力をしています。
お雪から学ぶポイントは、
1.男性への好意をわかりやすく表現する。
2.自分のやりたいことを、周囲の理解の上で存分に楽しめば良い。
3.聞き上手であれ。
4.おねだりは「たたみいわし」で!
5.ときにはストーカーであれ。
6.自分のために動いてくれる味方を大切にしよう。
学ぶことの多い人物像でした!
この小説の最後は、函館の寺に歳三の供養料を収めて立ち去った女性を
お雪であろう。
と書いています。
時代スペクタクル大作の結びがこの文であることに、驚きもし、納得もしてしまいます。
原作本もぜひ、一読をおすすめします。
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映画の終わりもお雪。原作に忠実な後味を残してくれました。
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